yumeshosetsuol’s blog

ただのOLの趣味です。今は2つの別の話を同時進行で更新しています。カテゴリーに分けると読みやすいです。

第28話(Bad End)

真っ白な手紙が届いてから7年経った。

7年間、今まで通り手紙が途絶えることはなかった。

同封されている写真を集めたノートは10冊を超えた。

大志くんが録った写真と同じ場所に行って写真を撮る。

それが私の唯一の趣味だった。

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そのためにお金を貯め、そのために働いていた。

看護師は私にとって天職で楽しくて続け、何人もの同期や後輩の寿退社を見送った。

優しさで良い人を紹介してあげると持ちかけてくれる人もいたが、

薬指の指輪を見せて「待ってるんです」と言っているうちに、みんな諦めてくれた。

母は、「やけになって結婚する方が良くない」と、自分の体験からか結婚しろだなんて言わなかった。

兄の家庭にこどもが生まれたこともあるだろう。

架純も福士くんと結婚してこどもも生まれ、

絵に描いたような幸せな家族になっていた。

それら全て、自分のことのように幸せに感じた。

 

急患が多くて夜勤明けでくたびれて帰ってきた日、

ポストを見るのさえ忘れていた。

そのまま眠ってお昼過ぎ、寝ぼけ眼でポストを見に行った。

赤と青のストライプの手紙と水色の封筒が届いた。

差出人のところをみるとあの郵便局のロゴが入っていた。

私は慌てて家に戻って両方を読んだ。

そしてそれを目の前にあったカバンに入れて上着を羽織って走った。

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大志くんが居なくなって季節をいくつ超えただろう。

今も夏と秋の境目で半袖では寒く、少し分厚い長袖では暑い時期だ。

外観の綺麗なマンションのチャイムを鳴らす。

「はい?あ、すず?どうぞ」

架純の声がした。

ここは架純と福士くんの住む家だ。

インターフォンの後ろで赤ちゃんの喃語が聞こえる。

私はオートロックが開くとすぐに入り、エレベーターのボタンを押す。

そわそわする。

福士家の家の前でインターフォンを鳴らす。

「すず、どうしたのー?ご飯食べてく?」

いつ訪ねても架純は嫌な顔ひとつせずむしろ歓迎してくれる。

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「きたよ」

「え?ほんとに?」

「きた」

私が真剣な顔で架純を見つめる。

架純は「とりあえず入って」と、私を玄関に招き入れ、福士くんがいるリビングに向かった。

そして「出かける」と、福士くんに告げる。

福士くんは少し驚いたようだが笑顔でこどもを膝に乗せ「いってらっしゃい」と、手を振らせた。

「すず、行くよ」

「うん」

そう言って私たちは学生の頃のように走った。

そして馴染みのある道に着く。

ここを通って毎日、高校に通った。

「ただいま!」

「おじゃまします!」

そう言って実家に唐突に上がりこんだ。

「おかえりー。あ!架純ちゃん久しぶり!」

今日は休みなのか、母が懐かしそうに架純を見つめる。

架純は母と少し話しているが、

私はそれを無視して部屋の奥のタンスから真っ白のそれを引っ張り出した。

「え、ちょっとすず、それどこもって行くの!?」

「借りるだけ!」

「いや、だからどうする気?」

「お母さん身長何cm?」

「160cm」

私と架純が母を上から下までじーっと見つめた。

「若い頃だからいけるね。今の体型で作ってたならぶかぶかだけど」

「なんの話よ!」

母が何が何だか分からず戸惑っている。

「じゃあ、ちょっと行ってくる」

「お邪魔しましたー!」

白色のそれはビニール袋に入っていて、ガサガサとうるさい。

「え!ちょっとふたりともどこいくの!?」

 


私と架純が動きを止め互いの目を見つめ合う。

そして微笑みながらふたりで母に返した。

 


『結婚式!』

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