プロローグ
「このキャップ、交換して使い切ると願いが叶うらしいよ」
「え?」
「広瀬、今日誕生日だろ?
はい、これ。交換」
先輩の手にはいつも使っている制汗剤のキャップが握られていた。
先輩は急かすようにそれを握った手を伸ばしてきた。
私は慌てて先輩と同じ制汗剤のキャップを外して手を伸ばした。
触れるか、触れないか…。
先輩の指が私の手のひらに少し触る。
「じゃ」
そういうと先輩は背中を向けて部室を出て行った。
「願いが、叶う…」
私は手のひらにある青色のキャップを
引き寄せ、強く握りしめた。
私が願うことはただひとつだ。
私はそれを強く想いながら
青色のキャップを締めた。
さっきまでなんの変哲もなかったその制汗剤が
たったひとつの宝物になった。
「使い切らないと、だね」
どうか、この恋が実りますように…。