2018-10-01から1ヶ月間の記事一覧
丘の上の海が見える"タカイトコロ"。 一番見晴らしがいい場所にそれはあった。 2月半ばの空気はよく冷えていて、息を吐くと白くなった。 凛とした空気はいつも感じている空気よりずっときれいに感じた。 景色とは雰囲気が合わない真っ黒な格好のふたりが、お…
『すずへ 最後の手紙は特別だと思うんだ。 だから、本当に最後に書いたわけじゃないけど、最後はこの手紙にしてほしいと、頼んでおきました。 つまり、これは最後の手紙です』 私と架純が持ち出したのはお母さんが結婚式の時に使ったウェディングドレスだっ…
真っ白な手紙が届いてから7年経った。 7年間、今まで通り手紙が途絶えることはなかった。 同封されている写真を集めたノートは10冊を超えた。 大志くんが録った写真と同じ場所に行って写真を撮る。 それが私の唯一の趣味だった。 そのためにお金を貯め、その…
それから数日後、いつも通り大志くんからの手紙が届いた。 引っ越してからは母が転送してくれていた。 消印も変わりなく、あのおじいちゃんの店からのものだろう。 でもいつもと違うことがあった。 封筒が青と赤のストライプではなく真っ白だった。 開けてみ…
『音が喜ぶことを、考えてしまう癖。もう、やめなよ』異業種交流会の日に愛莉から言われた言葉が、頭から離れない。真っ直ぐな彼女の双眸の奥に映った、狼狽えた自分自身の顔も。何度も耳の奥で響いて、脳裏に浮かんで、その度にどうしようもなさに胸が苦し…
最後の方は震えながら、泣きながら架純に話していた。 架純は私に寄り添い、抱きしめくれた。 外はもう明るくなっていて 白んだ空がカーテンの隙間から見える。 大志くんを探しに行った日と同じ色をしていた。 架純は何も言わなかった。 ただ、涙を流してい…
暖かい色の電球が優しく部屋を照らす。 「傷つけてしまうことになると思う」 少しかすれたおじいちゃんの声だけが聞こえた。 そう言っておじいちゃんは話し始めた。 大志は大学1年生の時にここに訪れた。 周りの学生から聞いたらしい。 変わった郵便局がある…
「すず、そろそろ起きないか」 そう、優しく揺り動かされて目が覚めた。 おじいちゃんがベッドの傍に座っている。 「美味しい朝ごはんがあるぞ。とは言っても時間はもうお昼に近いが」 ベッドから起き上がって壁掛けの時計を見ると12時を回っていた。 昨日、…
初めての場所でましてや国も違うのに、無事にホテルに着けるわけなかった。 ビクトリア大学の近くのホテルを取ったはずなのに場所が全然わからない。 キャリーケースを引く手が痛くなってきた。 街の明かりもだんだんと消え、賑やかなのはBARのような少し風…
日本を発って約11時間やっとカナダに着いた。カナダは日本より1ヶ月季節が早いように感じる、とネットに書いてあった通り、肌寒いというより、凜とした冬の空気だ。 ビクトリア大学には生徒に扮して入るつもりだったため、大きなキャリーケースは怪しまれる…
朝日が昇る前、自然に目が覚めた。 部屋の机は昨日架純との宅呑みの空き缶やお菓子が置いたままだ。 ふたりとも、そのまま眠ってしまったらしい。 出発まではまだ時間がある。 私は空き缶をすすぎ、ごみを片付けた。 架純は一度寝返りをうっただけで気持ちよ…
朝、目覚めると泣いていた。 また、大志くんの夢を見ていた気がする。 私はカーテンを開けて陽を浴びる。 薬指にはめられた指輪とダイヤが陽に反射して眩しい。 この指輪をはめてもらってもう、4年経つ。 「おはよう、大志くん」 私は写真の大志くんに指輪を…