第24話(Bad End)
「すず、そろそろ起きないか」
そう、優しく揺り動かされて目が覚めた。
おじいちゃんがベッドの傍に座っている。
「美味しい朝ごはんがあるぞ。とは言っても時間はもうお昼に近いが」
ベッドから起き上がって壁掛けの時計を見ると12時を回っていた。
昨日、おじいちゃんの話を聞いた後、私は眠れなくて、明け方にやっと微睡み始めた。
「食欲ないかい?」
「いえ、ありがとうございます。いただきます」
おじいちゃんは嬉しそうな顔をした。
みんなはお昼ご飯を終えたようだった。
でも、まさみさんはまだだったようで私は朝ごはん、まさみさんは昼ごはんを一緒に食べた。
「みんな私が作ってるのに食べ出すの。
ひどいでしょう?」
そう言って笑った。
私も少し微笑む。
「昨日はよく眠れた?」
「はい。居心地が良くて、こんな時間まで寝てしまいました」
誰も傷つかない嘘をついた。
まさみさんは察したようでそれ以上聞いてこなかった。
「今日はどこか行くの?」
「いえ、日本に帰ります」
え?と聞き返された。
本当は明日帰国予定だったからだ。
おじいちゃんも離れたテーブルから心配そうにこちらを見つめる。
「行きたいところには行けましたし、それに全部分かって良かった。
行き当たりばったりで来てこんなたくさんの偶然が重なるなんて、本当に嬉しかったです」
言葉の最後にはおじいちゃんを見た。
おじいちゃんは少し悲しそうに微笑んだ。
朝食を食べ終えて支度をすると一階のお店に降りていった。
窓口には明るい顔で訪れる人、暗い顔で訪れる人、みんなばらばらだ。
奥で黙々と仕分けをしている若い人が見えたた。
大志くんはここで働いていた時仕分けと掃除などの雑用をしていたそうだ。
その人が一瞬だけ大志くんに見えた。
私は微笑み、ドアを開けて店を出た。
おじいちゃんがお見送りしてくれた。
「またいつでも来てくれ」
と、私の手を握った。
「早めに来てくれると嬉しいな。年寄りには時間がないんだ。そしてまた、大志の話を聞かせてくれ。そして君の話も。年寄りは忘れっぽいんだ」
私は、「必ず来ます。何度でもお話しします」
そう笑顔で返した。
手をもう一度強く握り返して放した。
2、3歩進んでくるりと振り返った。
「おじいちゃんの仕事、すごく素敵な仕事だと思います」
おじいちゃんは少し驚いた顔をした。
私は手を振った。
そして空港までの道を歩き始める。
笑顔を作れたのはここまでだった。
なんで、旅行は行きは長く感じるのに帰りは短く感じるのだろう。
あっという間に日本に着いて、なんども乗り継いだバスも電車ももう次の駅で終わる。
電車を叩きつける雨を眺める。
「え!すず、どうしたの?」
私は気がつくと傘もささず、キャリーケースを引いて架純の家に行っていた。
「……なかった」
雨の音で私の声がかき消される。
「え?なんて?」
架純がバスタオルや着替えを持ってきてくれた。
「大志くん、いなかった」
私の頭を拭く架純の手が止まる。
「そっか。でも確かに消印だけじゃ難しいよね。でもまた探しに行こう!今度は私も一緒に行くよ」
違う!と、思わず叫ぶ。
架純が驚いて目を丸くする。
「大志くん、死んじゃってた。2年も前に」