yumeshosetsuol’s blog

ただのOLの趣味です。今は2つの別の話を同時進行で更新しています。カテゴリーに分けると読みやすいです。

第20話(Happy End)

よく晴れた22歳の8月14日。
私と大志くんは結婚式を挙げた。
夏空はには雲ひとつなく、自分勝手だけれど
みんながお祝いしてくれている気持ちになった。
控え室でウエディングドレスを着て、鏡の前で座って待つ私の周りでは式場のスタッフが慌ただしくもテキパキと仕事をこなしていた。
まるで私だけ時間は止まったようだった。

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「すず、入るわよ」
姉アリスの声がする。
「どうぞ」
わぁー!と高いいつもの姉の声と
架純の鼻をすする声が聞こえた。
架純はもうぽろぽろと涙を流していた。
「きれい。本当に」
母の少し寂しそうな、でも優しい声がする。
「ねぇ、お母さん。お父さんと結婚する時もこんな風に幸せだった?」
鏡ごしに母を見ると少し驚いたような顔をした。そして少し微笑んで、
「えぇ、とても。
でも今だってお父さんと結婚したこと、何一つ後悔してない。
だってあの人と結婚したから蒼が生まれて、アリスが生まれて、そしてすずが、幸せになってくれた」
母の目が少し赤くなる。
姉も涙をこぼす。
母が私の肩にそっと手を置いた。
「すず、これからたくさん楽しいことが待ってる。
これは本当よ。
でもつらい時もある。
そんな時はいつでも帰っておいで。
そして家族と架純ちゃんにたんと甘えて、
これからは大志くんのところに帰るの」
「うん」
ぐっと涙をこらえる。
「お母さん、これを」
式場のスタッフがティアラを母に渡す。
「最後の仕上げです」
母がそれを受け取ると私の頭に優しくつけてくれた。

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「すず、おめでとう」
そう言うと母は、一粒だけ涙をこぼした。
私もつられて泣きそうになったがこらえた。
「では、そろそろお時間なのでこちらへ…」
スタッフの誘導でみんなが式場へ向かった。
扉が閉まり、静かになった部屋で大志くんに出会った日のことを思い出した。
あの時、架純がたまたま運動場を見なければ、私は大志くんを見つけることができなかった。
勢いでもサッカー部のマネージャーにならなかったら大志くんが私を見つけてくれることができなかった。
「すずさん、こちらへ」
私は少しだけ頷いた。
いよいよだ。
教会に入る大きな古い扉の前で兄の蒼が待っていた。いつも優しい笑顔をしているが、今日はその笑顔に幸せが足されたような笑顔だった。
いつも優しく私と姉を見守ってくれた
父のような兄。
そんな兄と今日はバージンロードを歩くことを選んだ。
「すず、とっても綺麗。自慢の妹だ」
そう言って自分の腕に私の手を握らせた。

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母が遅くまで働いていた時、暗い夜が不安で、よくこの腕につかまっていたなぁと、もの思いにふける。
「それでは、入場です」
スタッフが小声で合図してくれる。
私は背をピンと伸ばし直した。

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扉が開き、拍手の音がする。
親しい顔が、たくさんの笑顔が私を包む。
ゆっくり歩く道の先に大志くんが笑顔で待っている。
兄から大志くんへ私が手を伸ばす。
大志くんは吐息交じりに「きれいだ」と、小さく囁いた。

こぼれ落ちたような言葉に私は思わず笑顔になる。

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そして、ふたりで誓いをあげた。

その後ブーケトスをした。
晴れ渡る空の下、色鮮やかなブーケは真っ直ぐ架純の元に行った。
大志くんの友人で参加していた福士くんと顔を見合わせた。
少し狙ったのは内緒だ。
友人のスピーチはもちろん架純に頼んだ。
架純の目はもう真っ赤で私もつられて泣いた。

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式は滞りなく進み、プログラム通り進んでいると、きっと大志くんは思ってるだろう。
そう思うと私はにやにやしてしまいそうになった。
「それではここで!新婦様から新郎様へのサプライズです!」
このサプライズを全く知らない大志くんは驚いた顔を私に向ける。
「すず、サプライズなんて用意してくれてたんだ」
私は無言で頷く。少しだけ緊張していた。
私が立ち上がり、壇上にのぼった。

架純と姉と母がこちらへ来る。
その瞬間、披露宴の会場が暗転して大きなスクリーンに解像度の低い黒と白の画像が映される。
大志くんを見るとなんの写真か、と探るように見ていた。
分かるよ、大志くん。
私も最初そうだったもん。
私がマイクを持ち、大志くんの方を向く。
「えっと、大志くん。
この画像だけじゃ分からないよね。
私も初めて見たとき分からなかった。
この写真はね、私たちの赤ちゃんのエコーの写真です」
会場が湧く。大志くんが立ち上がって私を見る。信じられないと目を丸く見開いていた。

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そして壇上に駆け上がって来て私を抱きしめた。

「ほんと?」
大志くんが抱きしめたまま訊いてきた。
「ほんとだよ」
私は泣きながら返す。
割れんばかりの拍手が私たちを包む。
「こんな大きな拍手だったら赤ちゃんにも聞こえてるかな?」

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「きっと聞こえてると思うよ」
そう言って見つめあった。

大志くんの目には涙が浮かんでいた。

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