yumeshosetsuol’s blog

ただのOLの趣味です。今は2つの別の話を同時進行で更新しています。カテゴリーに分けると読みやすいです。

第19話

待ちに待った2月14日。
私はこの日のために買った服と
ネイルを見ながら何度も何度も姿見の前に立った。
高校の入学式の日を思い出した。
あの日も制服が可愛くて、何度も何度もこの姿の前でポーズなんかとっていたっけ?
あれからもう、4年も経つのか…。

あの頃の鏡をのぞいていた私は先輩に出会うなんてしらなかったんだなぁ。
何やってるんだ。まだ待ち合わせの1時間も前なのに準備完璧に終わらせて。
でも1時間なんだ。
私たちが超えていた時差よりも短い、たった1時間で中川先輩に会える。
あの声、あの手、あの温もりが少し朧げな記憶になってしまった。
それに、今日触れられる。
待ちきれなくなってしまった私は1時間早いけど待ち合わせ場所に向かうことにした。
私が玄関で靴を履いていると、
冬休みで帰ってきている姉のアリスが
私の頭に何か置いた。
「なにこれ?」
「ベレー帽よ。そのコーディネートには絶対合う」
かぶった姿を玄関の鏡で見るととても合っていた。
「やっぱりお姉ちゃん天才!」
「当然よ。すず、世界一可愛い!いってらっしゃい!」
姉が笑顔で見送ってくれた。
玄関を出て階段を降りようとすると
「すず!」
マンションの出入り口で声がした。
誰?なんて思わない。間違いない。先輩の声だ。
私が身を乗り出して下を見ると先輩が手を振っていた。
思わず涙が溢れた。
でもだめ、だめだよすず。
先輩が留学する日、たくさん泣いたこと後悔したでしょう?
今日は必ず笑顔で。そう心に決めたでしょう?
「まだ1時間前でだよ!」
少し震えた声は先輩にばれてないだろうか。
「ごめん、待てなかった!」
その変わらない、無邪気な優しい笑顔が合図かのように、
私は溢れそうな涙を乾かすように全速力で階段を駆け下りた。
「大志くん!」
走ったままの勢いで抱きついた私を
先輩は抱きとめた。
「ただいま、すず」

顔は見えないがわかる。先輩は笑っている。
4年前より少し筋肉がついてる気がした。
きっとあの頃のようにサッカーをしていたのだろう。
でも同じ香りだった。
「おかえり、大志くん」
抱きしめられた手を解いて笑顔を向けた。
先輩はそれを噛みしめるように私の顔を見つめていた。
「4年前も可愛かったけど、もっと、もっともっと可愛くなってる」

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先輩が少し照れて言った。
「大志くんも、大人っぽくなって、本当にかっこいい」
先輩は少し照れて頭をかいた。
「すず、これ」
先輩が背中に隠し持っていたバラの花束を渡しに差し出した。
「わぁ、素敵!ありがとう」
私は目を細めてその花を抱き、香りを吸い込んだ。
そんな姿を先輩が見つめる。
「バラの花束には本数にも意味があるんだって」
私はバラの本数を数えた。
「9本?」
先輩を見上げる。
「…『ずっと、一緒にいてください』」
そういうと先輩がポケットから小さな箱を取り出して開けた。
そこにはシルバーに小さなダイヤが付いた指輪が入っていた。
「え、これって…」
「この4年間、すずを忘れた日はなかった。辛い時も、楽しい時も、すずを思い出してた。でも、俺さ、まだ卒業もしてないし、この指輪は婚約の約束」
そう言って私の手をやさしく握り、指輪を左薬指にはめた。

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「すず、結婚してほしい」
泣かないと決めていたのに涙がぽろぽろと溢れた。
声さえ出せなかったから何度も何度も頷いた。
涙でぼやけた指輪が反射した光は本当に綺麗でダイヤは一番星のように輝いている。
陽に透かして見ていると、先輩は私の手を握り走り出した。

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どこに行くの?なんて聞かなかった。
ふたりで居られればどこだってよかった。
ねぇ、大志くん。これからのふたりにどんなことが待っているのかな?
きっとわたしは弱虫だからたくさん泣いてしまうし、たくさん困らせてしまうね。
大志くんはその度に私の一番ほしい言葉をくれるんだろうな。
でもそれ以上にきっとたくさん笑うね。
大志くんといるとどんな小さなことでも素敵なことに感じるの。
私ばっかり幸せでいいのかな?って思うけど、
時々振り返って私を見る大志くんの笑顔には幸せが溢れていて、あぁ、この笑顔を守り続けたい、私はこの人と生きていきたい。
そう思った。

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