yumeshosetsuol’s blog

ただのOLの趣味です。今は2つの別の話を同時進行で更新しています。カテゴリーに分けると読みやすいです。

3音目

「いい天気だね」 彼女が手で陽を透かせている。 自由な彼女を見ていると、本当に猫だったのかと思いそうだが、 そんなわけないと、冷静な自分が言い聞かせてくる。 「今日からお世話になります。よろしくお願いします」 彼女がこちらを向いて会釈する。 「…

2音目

図書館は、外の空気がちょうどいい温度だからか、入り口と窓が開いていた。 心地よい春の空気に、心なしか本も喜んでいるように見えた。 彼女を探そうと思ったその時、見つけた。 彼女は、児童書が集まるところで子供たちに囲まれていた。 周りの子供たちは…

9話

11月から始まった、世界の茶葉を集めた催し物は、初日から大人気だった。愛莉と約束したのは11月の第一土曜日だ。お茶だけに午後からの方が混むと聞き、午前中に待ち合わせをしていた。家まで迎えに行くと言ったのだが、車を出してもらうから平気だと言われ…

1音目

ある晴れた春の日。 木陰はゆっくりと風をふくみ通学路を揺れていた。 僕はその日、日直でみんなよりも早く登校していた。 周りに同じ学校の生徒はいない。 急ぎ足のサラリーマンと、優雅に散歩する犬と余生を楽しんでいるであろうお年寄りばかりだ。 こんな…

プロローグ

多分、ずっと探していた。 子供が母親を探すのとは違う。 宝物のおもちゃをたくさんのものの中から探すのとも少し違う。 心の1番弱くて柔らかい部分を、 君は掴んで、離さなかった。 そんな君に、もう一度会いたかったんだ。 その為に探していた。 君は自由…

エピローグ(Bad End)

丘の上の海が見える"タカイトコロ"。 一番見晴らしがいい場所にそれはあった。 2月半ばの空気はよく冷えていて、息を吐くと白くなった。 凛とした空気はいつも感じている空気よりずっときれいに感じた。 景色とは雰囲気が合わない真っ黒な格好のふたりが、お…

第29話(Bad End)

『すずへ 最後の手紙は特別だと思うんだ。 だから、本当に最後に書いたわけじゃないけど、最後はこの手紙にしてほしいと、頼んでおきました。 つまり、これは最後の手紙です』 私と架純が持ち出したのはお母さんが結婚式の時に使ったウェディングドレスだっ…

第28話(Bad End)

真っ白な手紙が届いてから7年経った。 7年間、今まで通り手紙が途絶えることはなかった。 同封されている写真を集めたノートは10冊を超えた。 大志くんが録った写真と同じ場所に行って写真を撮る。 それが私の唯一の趣味だった。 そのためにお金を貯め、その…

第27話(Bad End)

それから数日後、いつも通り大志くんからの手紙が届いた。 引っ越してからは母が転送してくれていた。 消印も変わりなく、あのおじいちゃんの店からのものだろう。 でもいつもと違うことがあった。 封筒が青と赤のストライプではなく真っ白だった。 開けてみ…

8話

『音が喜ぶことを、考えてしまう癖。もう、やめなよ』異業種交流会の日に愛莉から言われた言葉が、頭から離れない。真っ直ぐな彼女の双眸の奥に映った、狼狽えた自分自身の顔も。何度も耳の奥で響いて、脳裏に浮かんで、その度にどうしようもなさに胸が苦し…

第26話(Bad End)

最後の方は震えながら、泣きながら架純に話していた。 架純は私に寄り添い、抱きしめくれた。 外はもう明るくなっていて 白んだ空がカーテンの隙間から見える。 大志くんを探しに行った日と同じ色をしていた。 架純は何も言わなかった。 ただ、涙を流してい…

第25話(Bad End)

暖かい色の電球が優しく部屋を照らす。 「傷つけてしまうことになると思う」 少しかすれたおじいちゃんの声だけが聞こえた。 そう言っておじいちゃんは話し始めた。 大志は大学1年生の時にここに訪れた。 周りの学生から聞いたらしい。 変わった郵便局がある…

第24話(Bad End)

「すず、そろそろ起きないか」 そう、優しく揺り動かされて目が覚めた。 おじいちゃんがベッドの傍に座っている。 「美味しい朝ごはんがあるぞ。とは言っても時間はもうお昼に近いが」 ベッドから起き上がって壁掛けの時計を見ると12時を回っていた。 昨日、…

第23話(Bad End)

初めての場所でましてや国も違うのに、無事にホテルに着けるわけなかった。 ビクトリア大学の近くのホテルを取ったはずなのに場所が全然わからない。 キャリーケースを引く手が痛くなってきた。 街の明かりもだんだんと消え、賑やかなのはBARのような少し風…

第22話(Bad End)

日本を発って約11時間やっとカナダに着いた。カナダは日本より1ヶ月季節が早いように感じる、とネットに書いてあった通り、肌寒いというより、凜とした冬の空気だ。 ビクトリア大学には生徒に扮して入るつもりだったため、大きなキャリーケースは怪しまれる…

第21話(Bad End)

朝日が昇る前、自然に目が覚めた。 部屋の机は昨日架純との宅呑みの空き缶やお菓子が置いたままだ。 ふたりとも、そのまま眠ってしまったらしい。 出発まではまだ時間がある。 私は空き缶をすすぎ、ごみを片付けた。 架純は一度寝返りをうっただけで気持ちよ…

第20話(Bad End)

朝、目覚めると泣いていた。 また、大志くんの夢を見ていた気がする。 私はカーテンを開けて陽を浴びる。 薬指にはめられた指輪とダイヤが陽に反射して眩しい。 この指輪をはめてもらってもう、4年経つ。 「おはよう、大志くん」 私は写真の大志くんに指輪を…

7話

10月も半ばになると、随分と風も冷たく感じられるようになった。「天馬、来週の土曜日は1日空けておきなさい」普段忙しく、一緒に食事をとることなどほとんどない父が、珍しく早く帰ってきたので、久しぶりの家族揃っての夕飯だった。「何かあるんですか?」…

エピローグ『それから』(Happy End)

私と大志くんの『それから』。無事に産まれてくれた、私たちの赤ちゃんは親バカだけれど世界一可愛い女の子で、静希(しずき)と大志くんが名付けた。名前の意味は、大志くんの『し』と、私すずの『ず』と、誰かが『望』んだ時それが希望に変わるようにと、『…

第20話(Happy End)

よく晴れた22歳の8月14日。私と大志くんは結婚式を挙げた。夏空はには雲ひとつなく、自分勝手だけれどみんながお祝いしてくれている気持ちになった。控え室でウエディングドレスを着て、鏡の前で座って待つ私の周りでは式場のスタッフが慌ただしくもテキパキ…

第19話

待ちに待った2月14日。私はこの日のために買った服とネイルを見ながら何度も何度も姿見の前に立った。高校の入学式の日を思い出した。あの日も制服が可愛くて、何度も何度もこの姿の前でポーズなんかとっていたっけ?あれからもう、4年も経つのか…。 あの頃…

6話

お疲れ様です、と周りから掛けられる声に返事をして、天馬は桃乃園コレクションのモデル控え室を出ようとした。 「馳さん、お疲れ様です」 扉の目の前で副会長の近衛が待っていた。 「近衛、お疲れ様」 いつものように天馬は微笑んだが、近衛は表情を固くし…

第18話

楽しい時間は早く過ぎていく。かの有名なアインシュタインもそう感じでそれを証明しようとしたけれど、彼でさえできなかった。みんな感じているはずなのにそれを形にすることは難しい。それはまるで気持ちのようだ。先輩を送り出す時、笑顔でいようと決めた…

第17話

私たちは会えなくなってしまう4年分を先に埋めてしまうように、たくさんデートした。兄に買ってもらった洋服は大活躍だ。今日も中川先輩とデートだ。映画を観に行く。待ち合わせ場所で待っている時間も幸せだった。 ノースリーブの水色のワンピースを着て待…

5話

まだ30分前だというのに、校内放送があった後だからか、体育館にはすでに多くの人が集まっていた。 前の方の席は、明らかに女子生徒の割合の方が多い。恐らく、生徒会長目当てだろう。 「桃乃園ニュース部」と書かれたタスキを付けた生徒たちが、体育館の前…

4話

10月1周目の土曜日。 今日は、桃乃園学院の学園祭だ。 学園祭と体育大会は兼ねられており、4日間あるところ、土日が学園祭のメインである。 学園祭は出店や出し物が多く、学院以外の人が来ても楽しめる内容になっており、体育大会はクラス対抗や縦割り対抗で…

第16話

マネージャーをしているとあっという間に夏休みは過ぎていった。当たり前だが姉と選んだ服はまだ一度も活躍していない。宿題ののことが完全に頭から抜けていた私は、夏休みの終わる一週間前架純に泣きつくと珍しく彼女もため込んでいた。それからは毎日私の…

第15話

夏季大会後の言葉通り、引退後も先輩は時々練習しに部活にやってきた。私は気まずくて、今までどう接していたか分からなくて視線や受け答えがどこかぎこちなくなっていた。心なしか先輩の顔はさみしそうに見えた。 多分、勘違いだと思うけど。夏季大会が終わ…

第14話

奇跡の一回戦突破した次の日に去年優勝した強豪校との試合を控えていた。私は応援しなければいけないという気持ちと中川先輩の留学のショックで感情がぐちゃぐちゃになってしまっていた。架純に何度も何かあったのか聞かれたが部員からも留学の話は聞いたこ…

第13話

夏季大会が始まった。始まる前の円陣を部員がを組み始めるのを横目に飲み物やタオルの準備をしてると吉田先生が「何やってんの!早く!」と、円陣から大声で呼んできた。私と架純は顔を見合わせて笑い、円陣に加わった。「できることは全部やった!3年生は最…