4話
10月1周目の土曜日。
今日は、桃乃園学院の学園祭だ。
学園祭と体育大会は兼ねられており、4日間あるところ、土日が学園祭のメインである。
学園祭は出店や出し物が多く、学院以外の人が来ても楽しめる内容になっており、体育大会はクラス対抗や縦割り対抗で競い合い、学院全体で盛り上がる。
1日目の一番の目玉は、服飾部とその他の有志で行われるファッションショーだ。
服飾部の部員が手作りする衣装を、有志のモデルが披露する。
そして一番最後を締めくくるのは、毎年桃乃園学院の生徒会長と決まっていた。
つまり、今年は天馬に声がかかっていた。
様々な学院の改革をしたことで、天馬は絶大な人気を誇っている。特に、女子生徒からの支持が高かった。
「すごーい!愛莉、ここ学校とは思えないくらいすごい!」
「ちょっと、あんまりはしゃがないでよ!周りから浮くでしょ!?」
愛莉はキッと眦を吊り上げて、めぐみを睨む。
けれど、めぐみは気にも止めず、きょろきょろと校内を見渡した。
愛莉は一度、桃乃園学院に潜入したことがあるのでめぐみのようなリアクションをすることはないが、驚きはしゃぐ彼女の気持ちはわからなくもない。
桃乃園学院は近未来的な校舎で有名だ。
とても高校とは思えず、どこかの最先端技術を持っている研究所、あるいは洗練されたデザインにこだわる企業のオフィスのようだと、よく取り上げられている。
「天馬くんって、ほんとすごいね」
めぐみは素直に感嘆するしかない。
「そうね」
「え!愛莉が褒めるなんて珍しい!」
びっくりしためぐみは、思わず校内散策の足を止めて振り返った。そして、信じられないというように、愛莉の顔をまじまじと見る。
「何よ」
「愛莉が素直に誰かを褒めるなんて初めてかも」
「……馳天馬は、本当に音の幸せを思って身を引いたからね」
愛莉は音のことも、晴のことも大好きだ。晴のことを応援していたし、晴の相手が音だったら良いと心から思っていた。実際に二人が結ばれた後、上手くいって嬉しかった。
今も、その気持ちは変わらない。
けれど、愛莉の中には、馳天馬を哀れに思う気持ちも同時に存在しているのだ。
彼は本当に音に一途で、心の底から大切にしていたから。
馳天馬と神楽木晴の試合が行われた後、音の様子を見に来た愛莉たちは、自ら身を引き、音の背中を押す天馬と鉢合わせた。
「最初は、音のために身を引くなんて、潔くて良い奴じゃん、くらいにしか思わなかった」
愛莉は音から話に聞くぐらいで、ほとんど馳天馬と関わったことがない。実際に試合の様子や引き際の潔さを見て、噂に聞くとおり、確かに良い人なのだと思っただけだ。
「でも、こないだ街で偶然出会ったんだよね。昔、私が音に酷いことをした時に、音を助けるために馳天馬が駆けつけた場所で」
その時は何も聞かなかったし、相手も何も言わなかったが、音のことを考えていたのは明らかだった。
「なんか…かわいそうだなって、思ったんだよね」
「天馬くんは、まだ音のことを忘れられていないんだね」
一番傷つき、一番失ったのは、馳天馬なのかもしれないと愛莉は思う。
ただ、彼に同情するものの、愛莉は音や晴との関わりの方が大きいので、二人を責めるつもりは全くない。
「━━━学園祭にご来場の皆様に、ご案内致します。15時より、本日のメインイベントとなります『桃乃園コレクション』を開催致します。イベント最後には、本学院の生徒会長・馳天馬会長にもご出場頂きます。お時間のある方は、どうぞ体育館にお集まり下さい」
しんみりとした空気を破ったのは、イベントの案内を告げる校内放送だ。
「天馬くん出るの!?愛莉、見に行こっ!」
めぐみは愛莉の腕を掴み、走り出す。
「ちょっと!手を離しなさいよ!」
愛莉とめぐみは、続々と人が集まる体育館に向かって足早に賭けて行った。