yumeshosetsuol’s blog

ただのOLの趣味です。今は2つの別の話を同時進行で更新しています。カテゴリーに分けると読みやすいです。

1話

9月ももう終わりに近付いた。

体育大会と文化祭は10月の1週目に続けてあるので、準備はもう佳境だった。

「馳さん、体育大会当日の動きなんですが…」

「すみません、生徒会長!保護者の誘導で確認したいことが…」

桃乃園学院は学校のイベント行事にも力を入れており、運営は出来る限り生徒会を中心に学生主体となって行う。

それぞれのイベントに執行委員を作り、細かい動きなどは一任しているが、学院の運営主体が生徒会となっているため、生徒会長の天馬のところには連日、各所からの問い合わせが舞い込んでいた。


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「馳さん、大丈夫ですか?ご無理をされているのでは…」

生徒会の仕事の合間に、心配そうに眉を曇らせた近衛が声を掛けてきた。

近衛は天馬を心から尊敬しており、天馬の信頼も厚く、今では副生徒会長として多数の仕事を任されている。

「近衛、ありがとう。大丈夫、無理はしてないよ」

天馬は心配ないというように微笑んだが、確かに疲れは感じていた。だが、幼い頃から武道で体は鍛えてきた天馬は、疲れを周りに見せるほどヤワではない。

「ここ最近、ちっとも休まれていません。今日はほとんど終わりましたし、後は僕たちに任せて、今日はもうお帰りになって下さい」

天馬が普段通りに振舞っていても、ずっと傍で天馬を支えていた近衛には、少しの体調の変化もわかるようだ。

他の人は気付かないようなことでも、目敏く気付いてくる。

「いや、生徒会長が先に帰るなんてできないよ」

苦笑と共に近衛を宥めにかかるが、生来彼は頑固者なのだ。折れてくれる気配はなく、逆に今日はもう帰れと説いてくる。

「いいえ、馳さんは1人で仕事を抱えすぎです」

近衛は、7月末に行われた「とある試合」で天馬が敗退してしまったことを自分のせいだと思っている。

天馬のことを思ってした行動が、結果的に天馬を動揺させ、試合で普段通りの実力を発揮できなかった要因だと、負い目に感じているのだ。

確かに、近衛が音にしたことは許し難い。

だが、試合に負けたこととそれとは話が別だ。

天馬は素直に、自身の心の鍛え方が足りなかったのだと反省したし、夏休みはより一層鍛錬に励んだ。

それに、きっと勝ち負けは関係なかった。

たとえ試合に勝っていたとしても、恐らく音の手を離すことを選んでいただろう。

「…馳さん、あまりご自身を追い詰めないで下さい」

天馬の調子が悪いのは、生徒会の仕事が忙しいだけではないと、近衛は気付いているのだ。

「本当に大丈夫だけど、近衛がそこまで言うなら後は任せるよ」

絶対に譲らなさそうな近衛を見て、天馬は困ったように笑いながら、帰る支度を始める。

「何かあったら連絡してくれ」

近衛は、ほっと安心したように頷く。

「はい。僕たちもすぐに終われそうですので」

「そっか。じゃあ、お先に。お疲れ様」


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