3話
聞き覚えのある、高い声。
振り返ると、正直あんまり会いたくはない人だった。
「君は…」
かつて、目の前のこの店に天馬を呼び出した張本人。
天馬と音を冷蔵庫に閉じ込めた少女だ。
「こんなところで、何してるの?」
「たまたま通りかかっただけだ」
たまたま通りかかったのは本当だが、本人を目の前にして、音と冷蔵庫に閉じ込められ日のことを思い出してました、とはさすがに言えない。
「ふーん?」
怪訝そうに天馬を見るが、それ以上は追及してこない。
恐らく、この店の前で立ち止まっていた理由は、何となく察せられているはずだ。
詮索されるのも面倒なので、大通りで立ち止まっているのも迷惑だからと促した。
「今日は一人なのか」
いつも、C5か音の誰かと一緒にいる印象がある。
「今日は買い物!向こうに車を待たせてる」
指差す方に黒く磨かれた高級車が止まっていた。
この少女と2人になるというシチュエーションは想定外なので、何を話せばいいのかわからない。
会話に困っていると、不意に愛莉が天馬を覗き込んできた。
「馳天馬、あんたちょっと痩せた?」
「え?」
天馬は驚きだ目を見張り、愛莉を見る。
「なんか、夏休み前に見た時より、痩せた気がする」
咄嗟に、そんなことはないと言い返せなかった。
近衛にも心配されて、早く帰らされたくらいだ。そんなに接点のなかった彼女にまで、見抜かれるくらい自分は酷い顔をしているのか。
「最近は、学園祭の準備で忙しいせいかもしれない。英徳も準備があるだろう?」
「まぁね。でも、うちは11月だからまだそんなに」
桃乃園は10月にあるが、英徳は11月らしい。
「ねぇ!桃乃園の学祭いつ?」
「来週だけど…」
「愛莉も行っていい?」
本日二回目の驚愕。
彼女は何を考えているのか。
桃乃園学院の学園祭は土日にあるので、保護者含め他校の生徒も大勢来る。だから、英徳学園の愛莉が来たところで、なんの問題もない。
なんの問題もないが、何故来たがるのかがわからない。
「君はC5なのに、桃乃園の学園祭に来ても大丈夫なのか?」
「うん、大丈夫。晴たちを連れてこなければいいんでしょ?」
小首を傾げて、愛莉は無邪気ににっこりと笑った。