第26話(Bad End)
最後の方は震えながら、泣きながら架純に話していた。
架純は私に寄り添い、抱きしめくれた。
外はもう明るくなっていて
白んだ空がカーテンの隙間から見える。
大志くんを探しに行った日と同じ色をしていた。
架純は何も言わなかった。
ただ、涙を流していた。
ぬるくなったお茶を飲み、一息つくと私は架純を見つめて言った。
「でも。」
涙が頬を伝う。
「でもね、私、ほんとは知ってたの」
「え?」
架純がこちらを向く。
「大志くんが帰国して会えた日の次の日、
お兄ちゃんの携帯が鳴ってて、私が渡そうと思って見たら着信画面に翔子さんの名前だった。
そこからやけに長電話だなって思ってたら、次の日の朝、仕事が休みだから帰って来てるはずなのに、お兄ちゃんがスーツで出かけたの。
ネクタイは普通のネクタイを締めてたけどお兄ちゃんが見てない隙にカバンをあさったら真っ黒のネクタイが入ってた。
あと、御香典も。
私、何に当たったらいいか分からなくて、
そのお兄ちゃんの黒ネクタイを隠したの。
それに気づかずに出かけて行ったお兄ちゃんを見て罪悪感にかられて、そのネクタイはお兄ちゃんの部屋の机の上に置いておいたの。
そこからの翔子さんの電話とか、いつもあの時期になるとお兄ちゃんと翔子さんと連絡が取れなくなるので、分かってたの。
でも、信じたくなかったし、細かいこと知らなかったから、大志くんが生きているって信じ込んで今まで生きてきた」
全て言葉にしてしまった。
歪み、歪んで耐えられなくなった世界がひび割れてゆく。
『大志くんが生きている世界』は、終わりを告げた。
「知ってたよ、でも待ってた。
ずっとずっと。
でもカナダに行くことを決めた。
全てを知りたかった。
私が知らない大志くんに会いたくてたまらなかった」
再び涙が溢れる。
「大志くん、会いたい。会いたいよ。会いたい」
嗚咽で声が途切れるまで私は繰り返した。
そんな私を見て架純も声をあげて泣いた。
私が殻に閉じこもり、無理やり時間を止めた世界は終わった。
今からはもう、大志くんのいない世界を生きていく。
もう、戻れない。