yumeshosetsuol’s blog

ただのOLの趣味です。今は2つの別の話を同時進行で更新しています。カテゴリーに分けると読みやすいです。

第15話

夏季大会後の言葉通り、引退後も先輩は時々練習しに部活にやってきた。
私は気まずくて、今までどう接していたか分からなくて
視線や受け答えがどこかぎこちなくなっていた。
心なしか先輩の顔はさみしそうに見えた。

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多分、勘違いだと思うけど。
夏季大会が終わったら告白するって意気込んでいた気持ちはしぼんで枯れてしまった。
うまくいったとしても国をまたいだ遠距離恋愛なんてきっとつらすぎる。
そう思うと告白するという気持ちは再び咲きそうにはなかった。
でもどれだけ気持ちが億劫でも、残酷なもので時間というものは無情にも過ぎていく。
架純もまた、福士くんの彼女の両親が離婚して
福士くんはそれを支えることに必死らしく
自分など眼中にないのだなとどんよりとしていた。

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気持ちと体両方疲れて家に帰ると姉のアリスが飛びついてきた。
「すず!明日寮に帰るからお兄ちゃんが言ってた
すずの誕生日プレゼント買いに行こう!」
正直そんなテンションではないが、半ば無理やり連れていかれた。
電車に乗って数分。姉がよく買い物をするという
いろんな店が並んだ街に来た。
暑い中、みんなおしゃれをしてえらいなと、
Tシャツにジーパンの私は他人事のように思った。
「あ、この店とかいいと思うよ!」
マネキンが着ている服装からして可愛いデート用の服といった感じだ。
「えー。いいよ。もっと楽なのがいい」
「ばか!」と、姉が言う。
「あんたそんな男の子みたいな私服ばっかりじゃん。
デートの時のために持っておくだけ持っておきなさい」
そういうと私の手を握り無理やり店に入った。
「いらっしゃいませ」と笑顔を向けてくる店員さんの目が笑ってなくて怖い。
でも店員さんの来ている服はとても女の子らしくて可愛いかった。
「これと、これと。あ!これも可愛い~」
姉は自分の腕にどんどん服を掛けていった。
そして私の前で数着宛がうと
「はい、これ、着る!」
そう言ってと服と一緒に私を試着室に押し込んだ。
「着られたら出てきてね」
と、言いながら試着室のカーテンを閉めた。
カーテンに背を向けて鏡を見るとショートカットで日に焼けた自分が映っていた。
ほんとに男の子みたい。と、心の中で呟く。
姉は自分に似合う服を分かっている。
だからきっとこれも意外と私に似合うかもしれない。
着替え終わりカーテンから顔だけ出して
「こんな服着ないから恥ずかしいよ~」
と、言うと
「大丈夫、すずは可愛い!」
と、姉が勢いよくカーテンを開けた。
白いトップスに赤いスカート。
トップスはデコルテの部分がレースになっていて少し透けている。
赤いスカートは膝丈くらいで短い。
「どうかな?」
姉は頭からつま先まで眺めると「はいこれ決まりね、次着替えて」
と早口に言い、カーテンを再び閉められた。
次は水色で細いストライプが入ったノースリーブのワンピースだ。
また着替え終わり顔だけ出して
「恥ずかしい」
と言うと、
「それじゃ見えない!」
と姉はカーテンをこじ開けようとした。
結果は姉の力勝ち。
「腕全部見えちゃうよ」
私が必死に隠そうとするが無理だ。
「はい、これも決まり。すずはやっぱり可愛いけど
これだけ魅力引き出せる服をすぐ分かっちゃう私も怖いわ」
そういうと勢いよくカーテンを閉められた。なんというか、すごい姉だ。
私が服を着替えて試着室から出ると
姉は自分の服もちゃっかり選んでレジで待っていた。
「あと、こっちの服の時はこのアクセサリー付けてね。これはどっちに合わせても似合うと思うの」
そう言ってアクセサリー数点も選んでくれていた。
総額を見て高校生の私は目玉が飛び出そうになったが、
姉は涼しい顔をして払っていた。
「すずも高校生なんだからもうこれくらのもの買っていいんだよ」
お兄ちゃんのお金なんだけどな、と思ったが
店選びからして普段もこれくらいの買い物をしているのだろう。
店から出てアイスを食べて姉の話を聞き、
私も先輩の留学のことはなんとなく言いづらかったので隠して話した。
日が暮れるころ姉が「帰ろっか」と言った。
夏の夕暮れの空の色は秋と違ってぼんやりとしてる。
帰りの電車でぼーっと眺めていると姉が少し俯きながら言った。
「なにがあったか分かんないけど、後悔のないようにね」
ふと姉を見ると少し悲しそうな顔をしていた。
「私昔から別の小学校行ったり、中学から寮に入ったり
他の子のお姉ちゃんと違ってすずといる時間が少なくて
いつでも相談とかのってあげられなくてごめんね。
でも、すずのこと本当に大切な妹だと思ってる。
言いにくいこともあると思うけど、話せるようになったら教えて。
もっと私を頼ってほしいな」
姉はどこまでも強くて優しいと言葉から感じた。
私は泣くのを堪えながら
「うん、言うね。全部私の中で整理がついたら言う。
自分で考えてみたいの」
と、言った。
「すずも大人になったね。その服でだいすきな人とお出かけ行くんだよ。
あ、その前に広大、ふらないとね」
意地悪そうに笑い肩を叩いてきた。
「あ、広大のこと忘れてた」
「うわ、すずが一番酷いからね」
可笑しくてふたりで笑った。
まだまだ暑いけどもうすぐ2学期が始まる。
先輩が留学してしまうまであとふたつしか季節がない。
ぼんやりとした夕暮れではなく真っ赤な夕暮れになる秋、
あっという間に暗くなってしまう夕暮れになる冬にはどうなっているのだろう。
告白しても仕方ないと思っていたが、もし先輩も同じ気持ちなら
たったひとつの季節でもいい。たった数ヶ月でもいい。数日でもいい。
先輩の一番近くにいたいと思った。
姉の言葉を聞いてそう思った。
過ごせなかった時間は後に悔いても戻ってくれないんだ。
「一番星だよ、すず」
まだ明るい空に月と宝石のような一番星が輝いていた。

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