yumeshosetsuol’s blog

ただのOLの趣味です。今は2つの別の話を同時進行で更新しています。カテゴリーに分けると読みやすいです。

第23話(Bad End)

初めての場所でましてや国も違うのに、無事にホテルに着けるわけなかった。

ビクトリア大学の近くのホテルを取ったはずなのに場所が全然わからない。

キャリーケースを引く手が痛くなってきた。

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街の明かりもだんだんと消え、賑やかなのはBARのような少し風紀が悪くなってきた。

そんな中、一軒の店の明かりが目に入った。

外観で風紀の悪い場所ではないことが分かった。

レンガで作られた建物は分厚い木でできた扉があり、外に時計が付いていた。

窓から覗いてみると日本の郵便局に似ていた。

ここでホテルの行き方を聞こう。

そう思ってドアを開けると、鐘の音が鳴る。

そこには看板を抱えた、30代くらいの男の人がいた。

短髪で爽やかな人だった。

早口の英語で何か言ってきている。

分からないが表情と聞き取れた単語で、

『店はもう閉店だ』と、言っている気がした。

「すみません、お客さんじゃないんです。場所を伺いたいのですが…」

そこまで言って日本語で喋っていることに気づいた。

男性は驚いた顔をした。

「どうされましたか、お嬢さん」

木でできた受付のような場所に白髪のおじいちゃんが立っていた。

「え、日本語がわかるんですか?」

驚いて聞き返す。

「そこの私の孫、お嫁さんが日本の人なんだよ」

だから驚いた顔をしたのか。

「あ、日本の方なんだね。僕はジョン。僕のお嫁さんが日本人でね。道に迷ってるのかい?」

なんだか安心感で涙が出てきた。

「おやおや」と言いながらおじいちゃんがこちらに来てくれた。

「お嬢さんは1人で来たのかい?それは大変だったね。どうだい、温かいものでも飲んで行きなさい」

そう言ってジョンさんに目で合図する。

私はそのまま温かい紅茶をごちそうになった。

飲み終わる頃には涙がひいた。

「落ち着いたかい?」

受付のイスに座り窓口のような所をはさみ、おじいちゃんと向き合っていた。

「はい」

私は笑顔を作った。

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「君は結婚してるのかい?」

私の指輪を見て思ったのか、そう尋ねてきた。

「いえ、これは約束です。婚約する、約束」

そう言っておじいちゃんに見せた。

おじいちゃんはしばらく指輪を見つめて、笑顔だった顔が固まる。

「間違えていたらごめんね。君はすずちゃんかな?」

驚きすぎて声が出なかった。

「そうです。でもなんで…」

Wonderful!surprised!

おじいちゃんが大笑いした。

「Ambitionの彼女だね」

そう言った。

「あんび…?」

「おお、すまない。僕たちは彼をそう呼んでいたんだ。

Boys be ambitious.これは聞いたことあるんじゃないか?」

「少年よ、大志を抱け」

「そう、Ambitionは大志ってことさ。

彼はここでアルバイトをしていたんだよ」

ここで!と、驚いて立ち上がった。

「ビクトリア大学から近いだろう?

ここを噂に聞いて、たまたま訪れた大志を僕が気にいってね。大志もアルバイトを探していたからここで働いてもらうことにしたんだ。その指輪は私が教えた店で彼が買ったものなんだよ」

偶然が重なりすぎて唖然とする。

大志くんの手紙には書かれていなかったことだ。

サプライズのために隠していたのか。

「彼に教えたお店はね、特別な場所で、僕はそこの指輪は分かるんだ。

そうか。あなたか。彼はあなたのことを本当に愛おしそうに話してくれたよ。

そう言えば、さっき君が持っていた地図のホテルだけどね、名前が微妙に違って君が予約したのは隣町のホテルだ。

今からだともう遅いからよかったらうちに泊まらないかい?

大志の話を聞かせておくれ」

悪いですと言うと「こんな面白い偶然、この歳でなかなか出会えない。僕は君と話がしたいんだ」

最後はお願いだよ、と言って気を使ってくれた。

私はひりひり痛む手を見つめた。

今から隣町はとてもしんどい。

ここは好意に甘えることにした。

「すみません、お願いします」

 

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そして、お風呂をかりて上がってくると温かい夕食が用意されていた。

お味噌汁とご飯と魚の煮付けだった。

温かくておいしくてなんだかとても懐かしく感じる。

「すずちゃん、大志くんの彼女なんだってね。ほんとすごい偶然」

ジョンさんの奥さん、まさみさんが食卓の正面に座って話しかけてくれた。

ショートカットでスタイルも良くとても美人だ。

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私が泊まると言っても嫌な顔ひとつせず、

娘さんが今、寮で暮らしているから娘が帰ってきてくれた気分!とむしろ笑顔で日本食などいろいろもてなしてくれた。

「大志とのことを聞かせてくれないか」

おじいちゃんがコーヒーを飲みながら私に言う。

私は出会いから、彼を探しに来ることになった経緯まで全て話した。

おじいちゃんは最初は嬉しそうに聞いてくれていたがだんだん顔が曇った。

「ごめんね、僕たちも彼と連絡を取っていないんだ」

おじいちゃんがまさみさんに目で合図する。

まさみさんが「あ!洗濯物!すずちゃんの洗っていい?」と、席を外した。

しばらくの空白ののちおじいちゃんが重い口を開いた。

「すず、聞いてほしいことがあるんだ」

そこから語られたことは、手紙には書かれていなかった、私の知らない大志くんの話だった。

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