第27話(Bad End)
それから数日後、いつも通り大志くんからの手紙が届いた。
引っ越してからは母が転送してくれていた。
消印も変わりなく、あのおじいちゃんの店からのものだろう。
でもいつもと違うことがあった。
封筒が青と赤のストライプではなく真っ白だった。
開けてみると中の便箋も真っ白で、ただレポート用紙のように薄い罫線が入っているだけだった。
写真も入っていない。
『すずへ
誰から聞いてしまったか、自分で知ってしまったか、分からないけど
あの郵便局に訪ねて行ったんだね。
この手紙はその時の為に書いたものです。
すず、ずっと騙していてごめん。
でも、すずをどうしても手放したくなかったんだ。
すずが僕のことを「酷い人だ」って、「もっといい男がいるはずだ」って、思うまで僕が生きていると、すずに会いたいと思っていることを伝えてすずを繋ぎとめていたかったんだ。
僕の一生を懸けてでも伝えたいことがたくさんあったよ。
まだまだ時間は足りないし、なんて言ったってカナダに行ってからすずには全く会えていないからね。
このままなんて絶対嫌なんだ。
どうしても伝えたいことがある。
渡したいものがある。
それを僕から渡したい。
もし、僕が直接渡せなくて、
おじいちゃんからもらったり、僕の家族からもらったらすずはどんな顔をするのかな?
笑う?怒る?それとも泣いてしまう?
その顔を直接見たいよ。
もし、すずが少しでも僕に同情してくれるなら最後の1通が届くまで、すぐ捨てるんじゃなくて一度でいいから目を通して欲しい。
これが僕の人生なんだ。
なんの迷いもない僕の選んだ人生なんだ。
どうか、最後の1日まで僕を記憶の片隅にでも置いておいてください。
大志より』
切なすぎて、体を切りつけられているように痛い。
手紙を読んでいる私でさえ苦しさに耐えられないのに、大志くんは一体どんな気持ちでこれを書いたのだろう。
この手紙を書いている大志くんに伝えたい。
『指輪、ちゃんと受け取ったよ』って。
『今でも大切にしてるよ』って。
『今でも信じて待ってるよ』って。
この人はずるい。
忘れるわけない。忘れられるわけないよ。
私、6年も待ったんだよ。
ただ、大志くんが好きなだけで私は幸せなんだ。
もう大志くんの歳さえ追い越してしまったのにまだ何一つ変わらずに愛してしまっている。
この気持ちが変わる気配なんてない。
私は手紙を丁寧に折りたたんで、
大志くんの手紙が入っている箱にそっと入れた。
もうすぐいっぱいになる。
また新しい箱を買いに行かないといけない。
でも、この箱を買うことさえもいつかは終わってしまうのだ。
種明かしされた後のマジックのように虚しさが募る。
私はひとりで声をあげて泣いた。
愛する人の全てを知った時のように。
いくら待っても帰ってこない家族を想うように。
生きる意味を失った時のように。