yumeshosetsuol’s blog

ただのOLの趣味です。今は2つの別の話を同時進行で更新しています。カテゴリーに分けると読みやすいです。

第8話

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「おはよう」
先輩が私に笑いかけた。
なぜ、先輩が私の家の前にいるのだろう。
これは夢なのか。

「どうして…。」
「歩きながら、話そうか」
先輩が優しく微笑む。
あぁ、なんでこんな日に限って寝ぐせ直しは適当だ。

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空がほとんど灰色の雲に覆われていつもより低く感じる。
昨日の雨で道端には水たまりがあって
それを避けながら歩くとごく自然に車道側を歩いてくれる先輩との距離が
近づいたり、離れたりを繰り返す。
先輩の方には恥ずかしくて向くことができなくて
うつむきながら歩く。
「昨日」
先輩が話し始めた
「昨日、大丈夫だった?風邪ひいたんじゃないかって心配になって」
核心には触れないのは優しさなのか、気まずいからなのか。
「全然、全然大丈夫です。見ての通り、元気で…」
違う。全然大丈夫じゃないよ。
先輩への気持ちが溢れて、その全部を伝えてしまいそうになったのに、
ずっと姉弟だって思っていた広大に告白されて、
私の頭の中はぐちゃぐちゃだ。
「広瀬」
先輩が急に私の方を向いた。
「今年が最後の夏なんだ。夏が終わったら受験がある。
思いっきりサッカーをできるのはこの夏だけなんだ」
急な話に「はい」としか返事ができなかった。
「だから…」
言葉を詰まらせ、困った顔で頭をかく先輩に私は気づいてしまった。
ふられてしまう。反射的に「先輩!」と言っていた。
先輩が驚いた顔でこっちを見る。
「分かりました。分かりましたというより分かってますから!
悲しいこと聞きたくないです!」
「広瀬、違う…」
「困らせてしまってごめんなさい。私にとっての大切な初めての夏は
先輩にとっても大切な最後の夏ですよね」
そう言って走った。また逃げてしまった。
でもいい。悲しくなるよりいい。
「待てって!」
先輩が私の腕をつかんで反射的に抱き寄せられた。
心臓が飛び出そうなほど高鳴る。
そっと頭に先輩の大きな手が触れる。
「違うから」
昨日の広大の時とは全然違う。あっという間に顔が赤くなっていくのが分かる。
心臓の音が聞こえる。自分の音かと思ったら、押し付けられた先輩胸から聞こえる音だった。
前、少しもらった制汗剤の匂いがする。
先輩はもう一度強く私を抱きしめて耳元で
「悲しいことじゃなかいから」
と言ってすっと私から離れて学校の方へ走って行った。

「違うから」
「悲しいことじゃないから」

ねぇ、だったら先輩、何を言おうとしてたの?

梅雨の雲のほんの小さな隙間から、陽の光が私を照らした。

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