yumeshosetsuol’s blog

ただのOLの趣味です。今は2つの別の話を同時進行で更新しています。カテゴリーに分けると読みやすいです。

第9話

私にとっての初めての夏は
先輩にとっての最後の夏なんだ。

中川先輩が言った「違うから」の続きが聞きたい。

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あれからあんな特別な会話を交わすことなく梅雨は明け、汗ばむ初夏になっていた。夏休みは目前だ。
テスト1週間前になると全ての部活が時間短縮か部活動停止になる。
サッカー部も例外ではなく、選手は時間短縮だが、マネージャーは部活動停止になった。
私は初めてのテストに戸惑っていた。
だが、一足先に授業の関係で帰省していた姉のアリスに毎日勉強を教わりながら頑張った。

姉は私と違って要領が良くて頭も良く、私とは違う有名な私立高校に通っていた。そこは全寮制の女子校でまさに清く、正しく、だ。

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よく考えれば先輩と同じ歳だ。勉強のふとした瞬間にそのことがよぎった。
「すず、聞いてる?」
姉が私を覗き込む。
「あ、ごめん」
すぐに今解いている問題に目をやるが
どこまで考えていたか分からなくなっていた。
「いつもぼーっとしてること多いけど、前会った時から何かあった?多くなってない?」
心配そうに私を見つめる。
「あ、いや、大丈夫」
「目そらした」
姉は私の両頬を手で挟みぎゅーっと強く押した。
「なんでも話してほしいよ。私の大切な妹なんだから」

優しい言葉に涙が溢れた。

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私は広大のこと、先輩のこと、そして前いたマネージャーのことなど全て話した。姉は相槌だけで黙って聞いてくれた。ただ広大のことを言った時だけは「ついに言ったかー!」とのけぞった。
「知ってたの?」と聞くと
「知ってたわよ。ここに引っ越してきて、広大を初めて見たときからね。広大ったら口をこう、ぼーっと開けてあんたのことばっか見てたんだよ。それで気づかないすずも天才だよ。広大も広大でこんな近くに私みたいな才色兼備がいるっていうのにさ。ま、広大に告白されたってこっちが願い下げだけど」
思わずふたりで笑った。
清々しく、淡白な姉の時々きつーい言葉はなぜか嫌な感じがない。
むしろ笑ってしまうことの方が多い。
「色々起こりすぎて混乱してるんだよ。すすばひとつずつ、ひとつずつ丁寧に考えた方がちゃんと答えを導き出せる」
シャーペンでさっきまで解いていた問題をトントンと差した。
ひとつずつ、丁寧に。
確かに、いつもどれも一緒にして考えていた。
どれから考えるかなんて優劣をつけられなかったからだ。
「はい、じゃあまず1番簡単な広大のことから!」
姉はいたずらそうに笑った。
「うーん。付き合う…とかはないかな」
正直な気持ちはそうだ。
兄、弟、とは言えないが家族みたいなものだ。
「でしょうね。夏休み明けにでも言ったら?夏休みは起こしてもらう必要ないし。でもちゃんと振ってあげるんだよ。広大もさ、一応一生懸命告白したんだから」
ツッコミどころが多いが私はふざけて「はい」、と敬礼して笑った。
「じゃあ、次の問題は『前いた先輩マネージャーのことを中川くんが好きかどうか』だ」
一気に気分が沈んだ。顔もわからない先輩マネージャーに嫉妬した。
「これは他の部員に聞いた方が早いかもね。さすが部内で噂にならないことはないだろうし」
ええー!と思わず声を上げる。
そんなこと聞いたら私が先輩のことすきだってばれるじゃないか。
「ただ、」
姉が私の方を向き直った。
「少し心当たりがある。この夏休みで確かめてくる」
姉は探偵のように顎に指を添えた。
「え、でもお姉ちゃん夏休み明けの模試とか受験とか…」
「いーの!夏休みは書いて字のごとく!夏に休むことなんだから!」
姉は本当に優しい。
「ありがとう…」
「その代わりすずは頑張って部員の人に聞くのよ〜。架純ちゃんにも手伝ってもらっていいから」
私は頷いた。
「そして、最後の問題。先輩が言った『違うから』の意味。これはとても難しい問題です。初恋な訳だからリテラシーのないすずには解けるはずもありません」
姉は私を指差して言い切った。
「しかしこれに関しては心配ありません!
女子校ですが他校の男子から毎日のように告白される姉が言い切ります!」
身内でも美人だと感じるくらいだからなんの嫌味にも聞こえない。
「最後の難しい問題は時間が解決してくれるからすずは今まで通りしてれば大丈夫!」
「は、はい…」と、答えて何もわからない私は頷くしかなかった。
多分姉が言うからそうなんだろう。
「ありがとう、お姉ちゃん。
お姉ちゃんって本当に頭も良くて綺麗で優しくてモテる理由が分かるよ。
でも、彼氏と長続きしない理由もわかる」
少しいたずらっぽく言うと
「一言多い!」
と、姉は教科書を丸めて私の頭を叩いてきた。
叩いたあと私の顔見ながら笑った。
つられて私も笑った。
あんなに梅雨みたいに曇った顔ばかりりしていたのに
今は自然と笑えていた。
いつも私のことを1番に考えくれる姉に心から感謝した。

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